香水を選ぶとき、「どんな香りなのか」が一番気になりますよね。実は香水の世界には、香りを大きく分類した 「香調(フレグランスファミリー)」 という考え方があります。シトラスやウッディ、オリエンタルなど、代表的な系統を知っておくと、自分の好みやシーンに合った香水をぐっと選びやすくなります。
香水の基本となる 7大フレグランスファミリー(シトラス/フゼア/ウッディ/オリエンタル/シプレ/レザー/グルマン) を徹底解説。特徴やイメージに加えて、どんな場面に合うのか、選び方のヒントも紹介します。
「初めての香水選びで迷っている」「自分の香りの傾向を知りたい」という方は、ぜひ参考にしてみてください。
香調(フレグランスファミリー)とは?
香水を語るときに欠かせないキーワードが「香調(フレグランスファミリー)」。
これは簡単に言うと、香水を“香りの系統”ごとに整理したカテゴリーのことです。音楽にロックやジャズ、クラシックといったジャンルがあるように、香水の世界にもシトラス、ウッディ、オリエンタルといった「ジャンル」が存在します。
香調の概念が生まれたのは19世紀後半のヨーロッパ。近代調香の技術が進み、膨大な数の香水が市場に並ぶようになったとき、香りを整理するために考え出されたのがフレグランスファミリーでした。それ以来、香水業界では定番の「共通言語」として使われ、調香師・ブランド・そして私たちユーザーが香りをイメージしやすくするための道しるべになっています。
たとえば「シトラス系」と聞けば、誰もが爽やかで軽快な香りを想像しますし、「オリエンタル系」となれば、甘く官能的で夜に似合うイメージが浮かびます。つまり、香調を知っているかどうかで、香水選びの精度はぐっと上がるのです。
しかも、香調はただの「分類」ではなく、自分のライフスタイルやキャラクターを香りで演出するためのヒントにもなります。カジュアルなTシャツの日にシトラスを纏うのか、それとも大人っぽいジャケットスタイルにウッディを合わせるのか。香調を理解すると、香水はファッションと同じくらい自由に楽しめる“自己表現のアイテム”へと変わります。
次のセクションからは、そんな香水の世界を彩る7つのフレグランスファミリーを一つずつ解説していきます。まずは爽快感あふれる「シトラス」から見ていきましょう。
シトラス(Citrus)
香水の世界で最も親しみやすく、そして最も“初めての一本”に選ばれることが多いのが、この「シトラス」。
その名のとおり、柑橘類をベースにしたフレッシュな香りは、まるで朝に飲む一杯のオレンジジュースのように気分をリセットし、爽快なエネルギーを与えてくれます。
シトラス系の香水は、ベルガモットやレモン、グレープフルーツ、マンダリンオレンジといった柑橘系の香料が主役。軽やかで清涼感があるため、季節でいえば夏、シーンでいえばオフィスや休日のリラックスタイムにぴったり。汗ばむ季節でも重くならず、清潔感を演出できるのが大きな魅力です。
ファッションに例えるなら、白シャツやデニムのような“誰からも好感を持たれる定番”。主張しすぎないのに、爽やかな印象を残してくれるから、年齢や性別を問わず使いやすいのもポイントです。
歴史的には、18世紀に流行した「オーデコロン」のルーツもシトラス系にあります。当時のヨーロッパで“健康の秘薬”とまで呼ばれたほど、人々に愛されてきた系統なのです。現代でもその人気は衰えず、多くのブランドがシトラスをベースにした名香を展開しています。
シトラス系が似合うシーン
- 夏の外出や旅行
- スポーツの後やリフレッシュしたい時
- ビジネスや面接など、清潔感を重視したい場面
シトラスの代表的な香水
- 4711 オーデコロン
クラシックの象徴 - ディオール オー ソヴァージュ
男性的なフレッシュ感の定番 - ドルチェ&ガッバーナ ライトブルー
ユニセックスで人気の軽やかシトラス - シャネル アリュール オム スポーツ
シトラスの爽やかさにウッディの温かみを重ねた、スポーティーで清潔感あふれる香り
シトラス系の香水は、まさに“間違いのない選択肢”。香水初心者にとって最初の一歩として最適であり、香水を複数持つ人にとっても、必ず一本は手元に置いておきたい万能ジャンルです。
フゼア(Fougère)
クラシックなメンズフレグランスを語るうえで欠かせないのが「フゼア」。
フランス語で「シダ」を意味するこの系統は、実際にシダの香りがするわけではありません。ラベンダーやオークモス、クマリン(干し草のような香り)などを組み合わせ、“森の中に佇むようなグリーンで落ち着いた香り”を表現しています。
フゼアは1872年に発表された「フゼア・ロワイヤル」という香水によって誕生したカテゴリーで、それ以来、男性用香水の王道として確固たる地位を築いてきました。ラベンダーの爽やかさにハーブやウッディの深みを重ね、清潔感と渋みを同時に感じさせるのが特徴です。
ファッションで例えるなら、仕立ての良いスーツやトラディショナルなジャケット。時代を超えて愛されるスタイルでありながら、堅苦しすぎず知的な印象を与えてくれる――まさに大人の男性にふさわしい香りです。
フゼア系が似合うシーン
- ビジネスやフォーマルな場面
- 自信や品格を演出したい時
- 落ち着いた印象を与えたい初対面のシーン
フゼアの代表的な香水
- ジバンシイ ジェントルマン(EDT)
ラベンダーのフレッシュさとウッディの深みを兼ね備えた名作。 - アザロ プールオム
80年代のメンズクラシックを象徴する力強いフゼア。 - プラダ ルナロッサ カーボン
「伝統的フゼアだと重い」と感じる人にも使いやすく、ビジネスシーンにもデイリーにも馴染みやすい一本
クラシックでありながら、現代的な解釈でアップデートされ続けているフゼア。
「信頼感」や「大人の余裕」を演出したい人にこそ選んでほしいフレグランスファミリーです。
ウッディ(Woody)
静かに寄り添うように、心を落ち着けてくれる――そんな包容力を持つのが「ウッディ」系統。
サンダルウッドやシダーウッド、ベチバーといった木の香料を軸に、森林浴を思わせるナチュラルな温もりを漂わせます。
ウッディの魅力は“深み”にあります。甘さや派手さよりも、木の質感そのものを感じさせる香りは、まるでお気に入りの革靴や長年着込んだジャケットのように、時間とともに味わいを増していく存在。シンプルなのに奥行きがあり、知的で落ち着いた印象を演出してくれます。
季節でいえば、特に秋冬との相性が抜群。乾いた空気に溶け込み、寒い季節に心地よい安心感を与えてくれます。シーンでは、夜のディナーや大人のリラックスタイムに最適。日中でも、香りを強く主張しすぎず“余裕ある大人”をさりげなく演出してくれるのがウッディ系の強みです。
ファッションに例えるなら、上質なニットや落ち着いたトーンのコート。派手なアクセントではなく、全体の雰囲気を格上げするアイテムのような存在感があります。
ウッディ系が似合うシーン
- 秋冬のアウタースタイルに合わせて
- 夜のディナーや特別なデート
- 自宅でリラックスしたい時間
ウッディの代表的な香水
- グッチ ギルティ アブソリュート
ドライでモダンなウッディ。都会的で硬派な印象。 - ディオール オー ソヴァージュ パルファン
シトラスに深みを加えた、エレガントなウッディ調。 - サンタマリアノヴェッラ サンダーロ
サンダルウッドの丸みを堪能できるクラシックな一本。
ウッディは「静かな存在感」を持つフレグランスファミリー。
シンプルに見えて奥深く、香水を嗜むほどにその魅力が理解できる、いわば“大人の玄関口”とも言える系統です。
オリエンタル(Oriental)
甘美でエキゾチック――香水の中でもひときわ官能的でドラマティックな存在が「オリエンタル」です。
バニラやアンバー、ムスクといった温かみのある香料をベースに、スパイスやレジン(樹脂系の香り)を重ねて生まれる、濃厚で奥行きのある香り。そのひと吹きは、まるで異国の夜に迷い込んだような幻想的なムードを演出してくれます。
オリエンタルの魅力は「余韻の強さ」。シトラスやフゼアが爽やかな第一印象を与えるのに対し、オリエンタルは纏う人の後ろ姿まで香りが続くような、忘れられないインパクトを残します。そのため、夜のデートや特別なパーティーなど、“記憶に残したい時間”にぴったりです。
ファッションで例えるなら、シルクのドレスやベルベットのジャケット。艶やかで華やか、それでいて重厚感を漂わせる――そんな装いと同じように、オリエンタルは「格上げした自分」を表現するためのフレグランスです。
オリエンタル系が似合うシーン
- 夜のデートやパーティー
- 冬のシーズンイベント(クリスマスや年末の特別な夜)
- 非日常を演出したい時
オリエンタルの代表的な香水
- ジバンシイ パイ
オリエンタルの中でも、知的でエレガントな甘さを持つ一本。 - トムフォード ブラックオーキッド
ダークでミステリアス。モードな夜に映える一本。 - イヴ・サンローラン オピウム
スパイシーで中毒性のある、伝説的なオリエンタル香水。
オリエンタルは、まさに「香りで魅せる」ためのフレグランスファミリー。
少し大胆に、自分を解放したい夜に纏えば、香りが新しい物語を語り始めるでしょう。
シプレ(Chypre)
エレガンスと洗練を語るなら、この「シプレ」を外すことはできません。
名前の由来はフランス語で「キプロス島(Chypre)」。1917年にコティが発表した名香「シプレ」が、この系統の始まりです。以来、シプレは“香水通”に愛されるクラシックなジャンルとして、長く語り継がれてきました。
その特徴は、トップに爽やかなシトラスが広がり、時間の経過とともにオークモスやパチョリ、ラブダナムといった深みのあるノートへと移ろう構成。まるで朝の光から夕暮れの影へと移り変わる景色のように、時間とともに香りの奥行きが増していきます。
ファッションで例えるなら、端正に仕立てられたブラックドレスやクラシックなスーツ。シトラスの軽やかさだけでは物足りない人に、上品で知的な印象を添えてくれる“ワンランク上の選択肢”です。
シプレは時に「少し大人っぽすぎる」と感じる人もいるかもしれません。でもその奥に潜むシックな余韻こそが、この系統の真骨頂。香水に慣れてきた人が次のステップとして挑戦するのにふさわしいファミリーです。
シプレ系が似合うシーン
- フォーマルなイベントやレセプション
- 大人っぽさを演出したい夜のディナー
- シンプルなファッションに知性を加えたいとき
シプレの代表的な香水
- アルマーニ プールオム
レモンやベルガモットの爽やかさに、オークモスとパチョリが重なりクラシックなシプレを継承。
シプレは、香りの奥深さを楽しみたい人にこそおすすめ。
シンプルさの中に隠された“知的なドラマ”が、あなたの印象をぐっと格上げしてくれます。
レザー(Leather)
煙のようにスモーキーで、どこかドライ。そして独特の艶やかさを秘めている――それが「レザー」系の香りです。
その名の通り、革製品を思わせるアクセントを持ち、ライダースジャケットやクラシックなレザーシューズのように、力強さとエレガンスを同時に纏わせてくれます。
レザー系のルーツは20世紀初頭。馬具や革製品の香りを再現するために誕生しました。当時はタバコや樹脂を組み合わせ、スモーキーで大胆な印象を作り上げたのが始まりです。その後、時代を経て「都会的」「洗練」といった新しい解釈も加わり、いまではファッション感度の高い人々から熱い支持を集めています。
ファッションに例えるなら、まさに“レザーアイテムそのもの”。
タイトなライダースジャケットならワイルドに、磨き上げたレザーシューズならクラシックに――スタイリング次第でイメージを自在に操れるのが、この系統の面白さです。
レザー系が似合うシーン
- 個性を出したい夜の街
- 大人の余裕を感じさせたいシーン
- ファッションにエッジを効かせたい時
レザーの代表的な香水
- ドルチェ&ガッバーナ ジ ワン フォーメン
タバコとスパイスのブレンドに、レザーのニュアンスが重なるモダンな香り。 - トム フォード タスカンレザー
しなやかな革の質感をラグジュアリーに表現。 - エルメス ベラミ
フランス的エレガンスを感じさせるクラシカルなレザー香水。
レザーは、まさに“上級者の選択”。
一度ハマればクセになる深みと独特の存在感で、香りを通じて「自分らしさ」を強烈に表現してくれます。
グルマン(Gourmand)
一瞬で“おいしそう”という言葉が浮かぶ、スイーツのような香り――それが「グルマン」です。
チョコレートやキャラメル、バニラ、ハチミツなど、まるでデザートを思わせる甘くとろけるような香りが特徴。香水の中では比較的新しい系統で、90年代に登場して以来、一気にトレンドの中心に躍り出ました。
グルマン系の魅力は、その“親しみやすさ”。他のフレグランスファミリーが抽象的な自然や文化を表現しているのに対し、グルマンは誰もが知っている「お菓子の香り」をモチーフにしているため、直感的に心地よく感じられます。その甘さは恋人や友人との距離を縮め、まるでカフェのようなリラックス感を演出してくれるのです。
ファッションに例えるなら、ふんわりとしたニットや、柔らかい質感のワンピース。親しみやすく、思わず触れたくなるような“甘いムード”を纏わせてくれます。
グルマン系が似合うシーン
- 冬のデートやホリデーシーズン
- カジュアルで温かみのあるシーン
- 自分を甘やかしたいリラックスタイム
グルマンの代表的な香水
- ジャンポール ゴルチェ ル・マル
爽やかさと官能をあわせ持つ、甘くセクシーなグルマン系メンズ香水。 - イヴサンローラン ラニュイドロム
スパイシーで官能的、夜に映えるセクシーなメンズグルマン - パコ ラバンヌ ワンミリオン
シナモンとローズに、甘いアンバーやレザーを組み合わせた大胆な香り。
グルマンは、甘さを楽しみたい人にこそおすすめの系統。
「ちょっと可愛らしく見せたい」「冬にぴったりのぬくもりが欲しい」――そんな気分のときに纏えば、香りがまるでデザートのようにあなたを包み込みます。
香調を知れば、香水はもっと楽しくなる
シトラスの爽やかさ、フゼアの知的さ、ウッディの落ち着き、オリエンタルの官能、シプレの洗練、レザーの個性、そしてグルマンの甘美――。
香水の世界は、この7つのフレグランスファミリーによって大きく彩られています。
香調を知ることは、単なる“分類の知識”ではありません。
それは、自分のライフスタイルや気分に合わせて香りを選ぶためのコンパスであり、ファッションや音楽と同じように“自己表現のツール”になるものです。
「今日は白シャツで爽やかに決めたいからシトラスを」
「ビジネスシーンでは信頼感を演出したいからフゼアを」
「特別な夜にはオリエンタルでドラマティックに」
そんな風に香りを使い分ければ、毎日が少し特別に感じられるはず。
香水選びに迷ったときは、ぜひ香調からアプローチしてみてください。きっとあなたの“運命の一本”が見つかるはずです。